伝統的な日本庭園は、四季を通じてさまざまな表情をみせ、水の流れや鹿威し(ししおどし)の音などで何ともいえない情緒を味わせてくれます。そんな日本庭園の雰囲気をご自宅の庭に取り入れたいとき、例えば竹垣や植物などを工夫して配置することで、和風の独特な空間をつくることができます。
ここでは日本庭園にご興味を持つ皆さんに、ご自宅でできる和風の庭づくりのヒントや施工事例をご紹介します。
欧米で日本庭園は大人気!
日本庭園は、海外からの観光客の間で人気を呼んでいます。特に、島根県の足立美術館は、枯山水をはじめ、苔庭や白砂青松庭など日本固有の美意識が息づく庭園で有名で、海外でも話題になっています。アメリカの日本庭園専門誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」では、13年連続日本一、フランスの旅行ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」では、最高評価の三ツ星として掲載されているほどです。
ぜひ、日本で生活している皆さんも、日本庭園の魅力を追求し、再確認してみましょう。
ご自宅の庭を和風に! その魅力とは…
1999年、奈良県の飛鳥川のほとりに大きな池泉庭(ちせんてい)が発掘され、7世紀後半の飛鳥時代のものであることが分かりました。つまり、飛鳥時代にはすでに、池のある庭園が造られていたということになります。日本庭園における池は、海や川を表現しています。
石や木、水など、あらゆる自然のものに神が宿ると考えた日本人は、古来より自然に対して強い畏敬の念を抱いていました。その日本人の自然観が反映され、日本固有の庭園文化として確立されたのが日本庭園です。
日本庭園にはいろいろな様式がありますが、どの庭でも石、木、水の並びは、ただビジュアルとして美しいだけでなく、その配置には日本人の精神世界が表現されているという共通点があります。
例えば、世界遺産の一つである龍安寺の石庭は、幅25m、奥行き10mの75坪ほどの敷地に白砂を敷き詰め、その中に15の石を点在させています。15というのは十五夜の満月に象徴されるように「完全」を意味しますが、ところが15個の石がすべて同時に見えることはなく、必ず1個が欠けて見えるようになっています。これには、あえて不完全にすることで、現状に満足することなく自らを常に省みよというメッセージが込められている。という説や、ほかにも中国の故事に基づくなど諸説ありますが、作庭の意図は謎のまま。いずれにせよ、こうした精神性を庭に投影できる極端なまでの抽象性があり、鑑賞者に自由な解釈をさせることこそ、作者の意図だったのかもしれません。
このように、日本庭園は、ただビジュアルとしての美を完成させた庭とは違い、庭に招いたお客さまを静かにもてなすことができる空間です。
さて、皆さんは日本庭園で使われる素材として何を想像しますか?
庭石だけでなく、山を表現した「築山」、水を使った「池」、砂や景石でつくる「枯山水」のように、さまざまな庭園の様式があり、また、四季のある日本だからこそ、黄葉・紅葉や季節ごとに咲く花々などの植物で、1年を通して目で楽しみ、心を潤すことができます。
このさまざまな様式については、このあと解説していきます。
日本庭園のいろいろな様式は?
日本庭園では、海に見立てた池や、池にそそぐ曲線の水路などを遣水(やりみず)といい、石や岩を組んで島や山を表現した龍門瀑(りゅうもんばく)、水は使わずに石、砂などで水の流れをつくる枯山水(かれさんすい)など、いろいろな特徴があります。それでは、この日本庭園のさまざまな様式を大きく3つに分けて簡単に解説しましょう。
●池泉回遊式庭園(ちせんかいゆうしきていえん)
自然そのものを縮図化した庭で、池や川、山をつくり自然を表現した庭を「池泉式庭園」、大きな池を中心にして、園内を回遊して観賞する庭園を「池泉回遊式庭園」といいます。池の周辺には園路を巡らし、築山、池中の小島、橋、石などで各地の勝景(しょうけい:すぐれた景色)を再現しています。
室町時代の禅宗寺院に見られ、また江戸時代には大名家が多く造営した形式で、日本庭園の集大成として位置づけられています。
代表的なものとして、東京では浜離宮恩賜公園、小石川後楽園、そのほかの地域では、兼六園(石川県金沢市)、後楽園(岡山県岡山市)、栗林公園(香川県高松市)などが有名です。
●枯山水(かれさんすい)
白い砂や砂利で水を、樹木で山などの風景を表現しています。白い砂の上を熊手でなぞり波に、石を鳥に見立てたりします。瞑想や座禅の場としても活用されるなど、心を落ち着かせる雰囲気のある庭園です。
●茶庭(ちゃてい)
お茶会を行う庭で、茶室に行くまでの通路でもあります。お客さまをもてなす気持ちが大切になります。
和風の庭をつくり出すデザイン
日本庭園のイメージを理解したところで、いよいよご自宅に和風の庭をつくる際のポイントを考えてみましょう。
●住宅と庭の雰囲気に調和させ、情緒ある空間を
和風の庭をつくるには、住宅と庭を統一したデザインで美しくまとめることが大切です。白砂利や景石を並べた枯山水のイメージの庭であれば、モノトーン構成のシックな色合いで統一された和モダンなデザインの住宅と調和します。
浴室や寝室の窓越しに見える坪庭も、砂利や景石をあしらい、シダ類などの下草や、マホニアコンフーサやアオキなどを植栽すれば、狭い面積でも情緒ある空間が生まれてよいでしょう。
●石灯籠や鹿威し(ししおどし)などで和風感を
和風庭園のアイテムの定番は石灯籠です。手水鉢(ちょうずばち)や鹿威し(ししおどし)も加われば、水の流れや鹿威しの音色で、何ともいえない安らいだ情緒が味わえます。
ちなみに、灯籠は飛鳥時代の仏教の伝来とともに渡来し、奈良時代の寺院建築で盛んにつくられ、平安時代からは神社の献灯として用いられるようになりました。この社寺の庭園文化の発達と共に、観賞目的で設置されるようになったのです。
和風の庭の施工事例
その他、和風の庭の施工事例をご紹介します。
●“植物”と“和の要素”のバランスがほどよい和風の庭
目隠しに人工竹垣を設置した、緑が美しく映え、自然が感じられる和風庭園です。植物を背景に、手水鉢と鹿威しを配置し、ランダムな景石や敷石で素朴な雰囲気を出しています。
●こげ茶色をバックに、苔(こけ)が映える和風の庭
苔は、日本庭園ではよく使われる植物の代表です。こげ茶色の人工竹垣エバーアートボード「建仁寺すす竹」のモダンな目隠しをバックに、苔と高木の緑が映えて、しっとりとした落ち着きを感じます。また、苔と延べ段(敷石と小石を歩きやすく敷き詰めたもの)の相性もピッタリです。よく見ると、右手奥のウサギの置物は、和風の庭になじんでいて遊び心があります。
●和風の中にモダンな雰囲気が感じられる庭
囲いとなっている御簾垣は、横に連なる細竹と、濃い押し縁のこげ茶のコントラストで、和風の庭にモダンな印象を加えています。白砂利や濃いグレーの石の乱張りも、互いが映える斬新なコントラストで和モダン感がいっそう強調されています。
●窓枠がフレームに…窓越しに眺める和風の庭
飛び石と砂利や景石、石灯籠と植栽、竹垣で構成された和風の庭。和風住宅の窓越しに眺める情景は、窓の開口がフレーム効果を発揮し、日本画のように見えます。また、住宅と庭が和で統一され、独特の情緒と落ち着きが感じられます。
●住宅と庭の雰囲気が調和した和モダン空間
直線的な黒竹の御簾垣と整然と並べられた敷石のモノトーン構成の空間に、高木や芝生の瑞々しい緑がよく生えます。シックでモダンな雰囲気の和の庭です。
日本庭園の歴史や様式を知ることで、和風の庭をつくる際のヒントをつかむことができます。奥深い日本庭園を再現するのは難しいかもしれませんが、そのエッセンスを取り入れることで、オシャレな和風の庭や、狭い空間でも情緒ある坪庭などを実現することは可能です。
和風感たっぷりの石灯籠や、手水鉢や鹿威しを、景石や植栽と上手に組み合わせ、和の雰囲気のある置物を配置するなどの工夫をして、理想の庭づくりに挑戦してみてはいかがでしょう。